「日本オートルート」というものをご存知でしょうか。
私も2019年5月頭に知ったのですが。。。
もともとはフランスでオートルート(la haute route)、日本語に訳すと「高き道」というものがあり、アルプスの最高峰モンブランの山麓シャモニから、マッターホルンの山麓ツェルマットに至る山岳路のことだそうです。
これをヒントに、日本において標高2000m以上の稜線をつないで、立山室堂から薬師岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、双六岳、槍ヶ岳をつないで上高地まで歩くのが、日本オートルートだそうです。
春の残雪期に山岳スキーで縦走するのが山岳スキーヤー憧れだそうで。
今回は少し修正して、槍ヶ岳には行かずに双六岳から新穂高温泉に抜けるルートを、山岳スキーではなく通常の登山で行ってきました。
累積標高(上り): 7248 m
累積標高(下り): -8582 m
3泊4日、50km超えのルートです。
アクセス
初日の早朝に平湯温泉に駐車して、平湯温泉バスターミナルから扇沢行きの高速バスに乗ります。
濃飛バスで1日1便、8:40に平湯温泉を出発して11:10に扇沢に着きます。
扇沢からは立山黒部アルペンルートで室堂へ。
平日のため海外の観光客がいるものの混雑はそれほどでもなく、うまく乗り継ぎできて、12:30頃に室堂に到着できました。
予定よりも40分早く出発です。
縦走1日目
12:45からと出発が遅めですが、初日は日暮れまでに五色ヶ原山荘まで行く計画です。
夏道でのコースタイムは5時間ほど。
室堂を降りると観光客でいっぱい。
ここでスパッツを装着して一の越山荘へ。
一の越山荘への道はしっかり雪で覆われています。
トレースバッチリで、安心して歩けます。
一の越山荘からは、きれいな雲海。
火曜日から登り始められてよかった。
ここまではトレースがあり、人通りもありましたが、この先は誰もいません。
槍が見えますが、はるか遠く。
あそこまで歩くのか、と思ってしまいます。
立山は雷鳥が多いですね。
目の上が赤いのでオスのようです。
こちらは雄山。
雄山も景色のいいところですが、今日は時間がないので先を急ぎます。
まず目指すは龍王岳。
右側の岩場から回り込みます。
龍王岳の稜線に出たら、遠くに白山が見えました。
白山もまだ白いですね。
数分寄り道して龍王岳山頂へ。
剱もよく見えました。
薬師・黒部五郎といった、これからのルートが一望できます。
個々の山が大きすぎて遠近感がわからなくなってしまいますね。
まずは今日の五色ヶ原がターゲット。
雪の割れ目のある斜面を振り返って。
大きな衝撃を与えぬように慎重に下りてきました。
こちらも雪の斜面のトラバース。
どちらもクライムダウンするほどの斜面ではありません。
この雪壁もトラバース。
稜線上を通ろうかと思ったのですが、危険そうな岩場だったので無理と判断して、こちらの雪壁ルートを選択しました。
獅子岳あたりで龍王岳と鬼岳を振り返って。
なかなかワイルドな山でした。
素晴らしい展望。
五色ヶ原までは、まだ少しありますね。
こちらは針ノ木岳と黒部湖。
ようやくザラ峠に到着。
雲が湧き出てきて、ガスに覆われると嫌だなと思っていましたが、ガスに覆われることはなく、この後素晴らしい景色が。
ようやく五色ヶ原の入り口に到着。
左奥には槍ヶ岳、右奥には笠ヶ岳。
中央右に小さく見える五色ヶ原山荘まで歩きます。
山荘はまだ営業開始していないので、近くにテントを張るだけですが。
西側にはきれいな雲海。
先ほど雲が湧き出ていたおかげですね。
ようやく五色ヶ原山荘に到着。
何とか日没前に到着できました。
テントを張ったら、まずは雪を溶かして水作り。
テントを張り終えたころが夕焼けタイム。
赤牛岳がうっすら夕焼け(アーベントロート)。
この日は暗くなるころと月の出の時刻が同じくらいで星がきれいに見えないので、星空撮影はせず、早々に就寝しました。
縦走2日目
この日はロングコースになるのと、午後になると雪が緩んで雪崩や雪庇崩落の危険が高まるので、3時に起きて、日の出前から歩き始めます。
歩いていると日の出。
雪面が赤くなり、きれいですね。
今日もいい一日になりますように。
西には富山湾と富山の市街地。
昨日よりもくっきり見える縦走路。
今日は右奥に見える薬師岳まで。
何だか近くに見える気がするのですが、周りに何もなく、また薬師岳がデカすぎるだけで、実際は随分遠い。
早速雪壁のトラバース。
朝早い時間で雪が緩んでおらず、また固く凍るほどの気温でもないので、それほど不安なく通過できます。
越中沢岳に到着。
後ろにはこれから向かう薬師岳。
ここも稜線上の岩場は危険と判断して、雪壁のクライムダウン&トラバース。
越中沢岳からの下りを振り返って。
この雪壁が今回の山行で一番危険だったかも。
朝早い時間で本当に良かった。
午後だと思うと怖すぎる。
なぜか1本だけ残っている木。
奇跡の一本松、ではないですね。
スゴ乗越小屋に到着。
当然こちらも営業前。
ここで軽めの昼食を取ります。
前日夜に水を入れておいたアルファ米です。
カレー味で、疲れた体でも食べやすいです。
スゴ乗越小屋を過ぎて少し歩いたのですが、疲れすぎて足がなかなか進みません。
仕方ないので、剱・立山を見ながらかき氷を食べ、30分ほど休憩することに。
再度歩き出すと、太陽のまわりの虹色の環「ハロ」が出現しました。
写真だとわかりづらいですが、二重にできていました。
北薬師に向けての登り。
このような雪道があったり、
このような夏道があったり、アイゼンをつけたり外したり、かなり面倒です。
ようやく北薬師に到着。
槍ヶ岳が少しは近づいてきました。
振り返ると、剱・立山と後立山連峰。
北薬師直下の雪庇(雪壁)も怖い。
夏道が出ていたら、できるだけ夏道を通ります。
薬師岳本峰に向けての最後の登り。
ここは夏道ではなく雪道を直登します。
ようやく、ようやく、薬師山頂に到着。
薬師如来に合掌。
ここまで無事に歩かせていただき、ありがとうございました。
振り返って、剱・立山からの稜線。
立山の右には、白馬鑓、唐松、五竜、鹿島槍、赤沢、爺ヶ岳、スバリ、針ノ木、蓮華。
赤牛、野口五郎、水晶、槍、穂高、笠&乗鞍、御嶽。
槍・穂高のアップ。
手前は雲ノ平です。
少し先に進むと避難小屋。
これが避難小屋?
とても泊まる気にはなれないので、薬師岳山荘まで下ってテントを張ることに。
西側には有峰湖が輝いていました。
無事にテントを張って、水作り。
一休憩したら槍が夕日で少し赤く染まっていました。
今日も無事に一日終えられて、ありがとうございました。
富山の夜景。
半径5㎞程度には誰もいないんだろうな、と思います。
槍ヶ岳方面と天の川の2ショットを狙っていたのですが、肉眼でも天の川は見えませんでした。
1時間もすると月が出てきてしまうので、ちょっと難しそうです。
こちらは富山の夜景と北斗七星。
今回の山行は、星空撮影としては難しい状況でした。
縦走3日目
今日も日の出前に出発。
まずは太郎兵衛平まで下りです。
太郎平小屋。
GWは開いていたそうですが、いまは人の気配はありません。
一部だけ雪が解けています。
奥には白山。
北ノ俣岳に到着。
背景には水晶岳と雲ノ平。
さて、黒部五郎岳へ。
昨日の薬師に比べると距離感がつかみやすい気がします。
北アルプスの雄大さに慣れただけかな?
そして、黒部五郎岳に到着。
北には薬師、剱、立山、旭、白馬、白馬鑓、五竜、赤牛。
北東から東にかけて、赤牛、水晶、鷲羽、三俣蓮華。
中央手前には雲ノ平。
南東には、槍、穂高、笠、乗鞍、御嶽。
素晴らしい展望ですね。
雪が緩むと嫌なので、早めに先に進みます。
夏道はカールの方へ進みますが、残雪期は稜線ルートを進みます。
その稜線ルートを振り返って。
岩と雪が入り混じり、かなりワイルドなコースでした。
無事に黒部五郎小屋に到着。
他と同様に、まだ小屋開けしておらず、誰もいません。
余裕があれば三俣山荘まで行こうと思っていましたが、これから2時間も歩くのは厳しいと思い、ここで泊ることに。
この日は雲が出ていて星空撮影もせず、おとなしく一夜を明かしました。
縦走4日目
ふと目が覚めると2時過ぎ。
もう一度寝ようとしたけど寝られず、このまま出発します。
三俣蓮華岳に向かう稜線上から、モルゲンロートの黒部五郎、薬師を写真に撮りました。
さらに歩を進めると、稜線上で日の出を迎えます。
この日は4日間の中で最も涼しく、日の出後もしばらく薄手のダウンジャケットを着たまま歩きました。
三俣蓮華への登り。
雪の割れ目が激しい。昨日登っていたら危ないところだった。本当に本当に朝で良かった。
そして、三俣蓮華岳に到着。
4日間の中で一番の大展望で、「おぉぉ!」と思わず声が出る絶景でした。
まずは東から。
表銀座の燕、大天井、常念、槍。
槍から穂高にかけての稜線。
双六と笠。
遠くに白山。近くには黒部五郎と太郎兵衛平。
薬師、剱、立山、赤牛。
薬師はやはりデカいですね。
剱、立山、赤牛、水晶、鷲羽。
赤牛は未踏ですし、水晶・鷲羽は行ったときに曇り空だったので再訪したいところです。
色々な山がありますが、やっぱりここからは槍穂の雄姿が最高です。
立山の一の越山荘を過ぎてからずっと一人。
広い景色を独り占め。
今日は双六山荘あたりでテント泊の予定でしたが、時間が随分と早い。
今日槍ヶ岳山荘まで行くかという考えも出てきましたが、本日中に一気に新穂高温泉に下山することにしました。
さて、双六に向けて。
雪壁上の雪の割れ目が激しく、これは恐ろしい。
できるだけ夏道や稜線上を通って進みます。
無事に双六岳に到着。
遠くには白山。
でも、双六岳と言ったら、
この景色でしょう。
縦でも撮影します。
少し歩いたところからも撮影。
前回来た時には曇っていたので、この景色が見られてうれしい限り。
一通り撮影を終えて先に進むと、30~45度程度の雪壁。
アイゼンをつけて注意して下山しました。
上記は振り返っての1枚。
雷鳥のつがいもいました。
しばらく撮影していても逃げず、仕方ないので先に進むと雷鳥も登山道を下山していき、まるで鬼ごっこのようでした。
雷鳥には悪いことをしました。
無事に双六山荘に到着。
ここで昼食を取りつつ、樅沢岳に登るかどうか悩みました。
時間的には登れるし、百高山を狙うなら登るべき、
ただ、百高山などに縛られるのが山の楽しみなのか? 樅沢岳に登って何か違う景色が見られるのか、新穂高まで下山する体力を奪われないか、などと考えてしまいました。
結果、昼食を食べ終わって立ち上がったときの空身での身の軽さに安心して、空身で樅沢岳へ向かうことに。
無事に樅沢岳へ到着。
樅沢岳からは槍ヶ岳への西鎌尾根がよく見えました。
このルートをそのうち通ることはあるんだろうか、あとどのくらい元気に登山できるんだろうか、と思いつつ、双六山荘へと引き返しました。
双六山荘でザックを回収し、下山開始。
雪で夏道が消えているので、どこが夏道の入り口なのかをルートファインディングしつつ進みます。
途中で振り返っての1枚。
双六山荘と鷲羽のいい景色ですね。
左手には槍・穂が常に見えるぜいたくなルートです。
ただ、夏道が雪の下に隠れているときには雪の上を歩きますが、雪がずいぶんと解けてきていて、危険な状況です。
ぜいたくな景色を味わいながらも、緊張感は常に持ちつつ歩くことになりました。
このルートはいい景色だ!
でも、そろそろ稜線とはお別れ。
弓折岳からは本格的な下山開始です。
弓折岳手前から鏡平山荘へと向かうのではなく、山頂辺りからシシウドヶ原へと最短ルートを下ります。
ここの下りも急勾配でアイゼンとピッケルを出しましたが、クライムダウンするほどではなかったです。
この下りで久々に人とすれ違って3日ぶりに人と話しました。
やっと人里に近づいてきたと感じられました。
あとは左俣へと下るのみ。
最後の方は雪崩の堆積部であるデブリがたっぷりのデブリーランド。
凸凹していますが、雪は比較的固いので、見た目よりも歩きやすいです。
ただ、下に水が流れているところがあり、踏み抜きには要注意。
槍穂もそろそろ見納め。
川を渡るはしごはなく、代わりに雪のアーチがかかっていました。
こちらも踏み抜かないか、ヒヤヒヤしつつ通過しました。
やっと林道に出ました。
これでもう安心、と思ったら、
林道が雪で覆われている箇所が何度か出てきました。
アイゼンをつけるのも面倒で、ツボ足のままで何とか通過。
最後に笠新道登山口の清水で力を得て、何とか新穂高温泉まで歩けました。
ここで足を滑らせたら、雪壁が崩れ落ちたら、死ぬんだろうな、
周りには誰もおらず人に気づかれることもないんだろうな、
と緊張を強いられる場面がたびたびありましたが、大きなトラブルなく無事に歩き通すことができました。
終わりに
残雪期らしく雪道と夏道が入り混じっており、雪の割れ目も多数あって、雪庇や雪壁の崩落を恐れながらの登山となりました。
できるだけ夏道を通る、できるだけ雪道を通るときは地面の近くを歩く、朝早くに出発して午後に危険なところは通らない、といったことを注意しながら。
ここで足を滑らせたら、雪壁が崩れ落ちたら、死ぬんだろうな、
半径5kmくらいには誰もおらず人に気づかれることもないんだろうな、
と緊張を強いられる場面がたびたびありましたが、大きなトラブルなく無事に歩き通すことができました。
何より、天候に恵まれ、景色は最高でした。
特に、遠くに見えていた槍が近づいてくる様子は、自然の大きさと人間の足の偉大さを感じました。
また、最終日にたどり着いた三俣蓮華岳での360度の大展望には、感動しました。
4泊5日で計画していましたが、結局4日目と5日目のルートを最終日に一気に歩き切って3泊4日となりました。
日数的にも、体力的にも、残雪期の危険度としても、今回のような登山はこれで最後になるかも、と思います。
大した危険に会うこともなく無事に下山できたのも運が良かっただけかもしれませんが、総合力を使い、自分の経験値を上げることができました。
満足感たっぷりの山行でした。