「雪山登山の始め方 既存装備での安全なお試し方法&ルート」の中で、「雪山の始め方 登山編」と題して雪山歩きの際の注意点について記載しました。
ただ、それはあくまで雪山初心者向けの最重要の心構えだけを記載していました。
今回は、少し慣れてきてからステップアップしていく際に注意すべき点を記載します。
雪山のリスク
「雪山登山の始め方 既存装備での安全なお試し方法&ルート」でも記載しましたが、雪山には以下のような危険があります。
- 気温が低く、かつ冬は夏に比べて風が強いので、低体温症、凍傷などのリスクが高い
- 天候が急変しやすく、天候悪化時には数日間身動きできなくなる場合もある
- 道が雪に覆われて登山道が消えるので、正規ルートを外れて道迷いになりやすい
- 雪があり、夏道のコースタイムよりも時間がかかる
- しかも、雪の状態によって歩行スピードが大きく変わるので、予想通りに歩けるとは限らない
- 日の出ている時間=行動時間が短いので、少し計画が狂うと暗く寒い夜になる
- 夏山に比べて人が少ないので、いざという時に周囲に頼れない
- 雪崩の危険がある
雪山初心者としては、以下を守るべきです。
- 天気予報で快晴の時だけを登山日にする
- 雪山としてメジャーな山に休日に登る
- 何か危険や違和感を感じたら、迷わず引き返す
ただ、初心者からステップアップしようとすると、段々と人が少ない山にも登るようになってきますし、多少の天気の崩れも出てきます。
そうした中でも登山をする際の注意点を次から記載したいと思います。
服装
雪山は、歩いているときは暑く、止まっていると寒いです。
また、天候が悪化したり風が強くなると、一気に寒くなり、素肌に強風をさらすとあっという間に痛くなり、凍傷のリスクがあります。
次のことを注意しましょう。
- 素肌を出さない
- 手袋をしたまま靴ひもを締めたり食事したりできるように訓練する
- 風で飛ばされないように、できるだけ服の着脱を避ける
- チャックを空ける、ベンチレーターを空ける、などで体温調整する
- 逆に言うと、ベンチレーター付きなど体温調整しやすい服を選ぶ
- 末端(手先、足先、耳)と首元の防寒を重視する
- 凍傷になりやすい末端をカバーするとともに、体感温度を左右する首元を温める
- 手袋、靴下、登山靴はいいものを。そして、ネックウォーマーと予備手袋も忘れずに。
- 雪目にならないように、サングラス/ゴーグルを装着する。強風に備え、ゴーグルは持参する
- 曇りにくさで言うとサングラスのほうがいいが、強風時の凍傷防止を考えるとゴーグルが必要なので、ゴーグルも必ず持参する
準備
心構え
雪山を歩く際に、夏山とは全く異なる点があります。
- 雪で登山道が隠れているので、登山道がどこかわからない
- 夏用の登山道を、冬には通ってはいけない場合がある。つまり、夏道と冬道が異なっている場合がある
- つづら折りになっている夏道が、冬は急傾斜で雪崩の危険があるので、冬は別ルートが標準になっている場合もあります。夏道が基本ですが、雪山では夏道が絶対ではないという意識は重要です。
- 積雪量により、かかる時間が10倍以上変わる場合がある
- フカフカ雪が積もると、ラッセルと言って雪をかき分けて進むこととなり、1時間で100mしか進めないということがあります。
つまり、次の2つの意識が重要です。
- 行く山の雪の状態について、できるだけ情報を集める
- 予定通りに進めない可能性が十分にあることを認識し、その場合でも問題なく下山できるような計画・リスク対策をする
では、具体的にどうすればいいか、次からまとめてみます。
行く山の過去の記録や天気のチェック
まず、行く山についての情報収集です。
- 行く山について、ヤマレコで直近の記録、1年前の記録を確認する
- YAMAPは、初級の人の割合が比較的多い印象です。ガチの雪山に登る人はヤマレコのほうが多いので、ヤマレコを見ましょう。
- ヤマレコの検索窓に山の名前を打ち込んで、記録を表示させます。まずは直近の記録を複数見て、どのルートを通っているか、どの程度の人が登山しているか(トレースができていそうか)、どの程度の積雪があるか、を確認します。
- ただし、たいてい前週末の記録までしかなく、この1週間の天候により雪山の状況が大きく変わっているかもしれません。1年前の記録を数週間分見ると、雪の量、天候による入山者の数の変動、トレースの有無などがわかります。
- 1週間分の天気と登山当日の天気を確認する
- ヤマレコの直近の記録はたいてい前週末の記録です。そこから1週間で雪が降ったか、雨が降ったか、などの天気の変化を随時チェックします。つまり、1週間前から天気予報を毎日見る必要があります。
- 雪が降っていれば、ラッセルの覚悟が必要です。ドカ雪や雨が降っていれば、雪崩の危険があります。
- 登山当日が快晴で、かつ人気の山なら、他の登山者もいるでしょう。トレースが期待できますし、先頭に立っても、ラッセルを交代で進めるでしょう。登山当日の天候が快晴と言えなかったり人気がそれほどでないなら、一人でラッセルする覚悟が必要です。ワカンかスノーシューは必須でしょう。
- ちなみに、雪が降らなくても、風でトレースは消えてしまいます。トレースがない場合の対応策も考えておきましょう。
リスク回避を組み込んだ登山計画
こうした情報を踏まえて、リスク回避を組み込んだ計画を立てます。
- ルートを決める
- 山と高原地図でルートとして記載されていても、それはあくまで夏道のことです。冬道として使えるかどうかはわかりません。ヤマレコで記録がないルートは、避けたほうが無難です。
- ヤマレコの記録を見て、悪い状況になっても自分が同じように歩けるか、と考えてみてください。ヤマレコの記録者の過去の記録も見て、自分とのレベル差を把握しましょう。ヤマレコの記録があるからと言って、自分も歩けるとは限りません。
- 撤退地点&時刻を決めましょう。何時にどこにまで行けていなければ下山する、というポイントを決めましょう。
- 登りと下りで同じルートを通るピストンなら、計画通りに歩けなかった際の引き返しが安心です。周回ルートとなると、行きのルートはトレースがついていたが、帰りのルートはトレースがなくラッセルが必要で時間が非常にかかる、という場合もあります。悪い状況だったとしても日没までに下山できる計画にしましょう。やはりピストンが基本です。
- 装備を決める
- 雪の状態により、ワカンやスノーシューが必要かどうか判断しましょう。また、アイゼンのみか、チェーンスパイクや軽アイゼンも持参するか、決めましょう。
- 気温や風の予報を踏まえて、防寒具を用意しましょう。予備手袋も忘れずに。
- 念のためと言って道具をすべて持っていくのが正しいわけではありません。荷物が重くなると、それだけ歩行スピードが落ち、リスクも高まります。状況に応じた適切な装備を持っていきましょう。もし持って行った装備が、現地で実は適切でなかったと思えば、無理せず撤退しましょう。
歩き方
歩き方の基本
まずは、「雪山登山の始め方 既存装備での安全なお試し方法&ルート」でも記載した基本です。
- 汗をかかないように、こまめにチャックを開け閉めして体温を調整する
- 汗で濡れると危険です。天候次第では死に直結します
- 大休止は避けて体を冷やさない
- こまめに糖分・水分を補給する。暖かい水分補給は凍傷予防にもなる
次からは、この基本以外に、雪山初心者からステップアップする際に必要となることです。
アイゼンワーク
- 歩いていると、アイゼンをひっかけて転倒しがちです。初心者用の雪山なら危険は少ないですが、急斜面などで転倒すると非常に危険です。
- イメージとしては30cmほど離れた2本の線の上を、左右それぞれの足で歩く感じです。そして、逆「ハ」の字のようにつま先を開きます。コツとしては、足先を開くことを意識するよりも、腰を2cmほど落として股関節を開くことを意識するといいです。日常生活の歩き方から注意しておくといいですね。
- より詳細には、「雪山でのアイゼン歩行方法 雪質や傾斜に合わせて歩き方を変えよう」を参照ください。
ルート探索
アイゼンワークを身に着けていても、道に迷っては意味がありません。
夏道が雪で隠されてしまう雪道で、ルートを探す方法です。
- 前にヤマレコの記録などでルートと雪の状態を確認したうえで、ルートに沿って進む。こまめにルートを確認する
- 赤テープや地図、スマホのGPSをたよりに、想定ルートから外れていないか、こまめにチェックしましょう。強風があると位置確認を省略してしまいがちですが、後で痛い目を見る場合があります。
- 夏山と比べて赤テープを見つけづらいです。雪に隠れていたり、冬道は夏道とは異なるルートだったり。また、スマホのGPSも位置がずれていたり、現在地が更新されていなかったりもします。総合的に判断しましょう。
- 雪の状態に応じて、臨機応変に適切なルートを見つけましょう(ルートファインディング、略してルーファイと言います)。
- 決まったルートだからと言って、自分が危険と感じるところへ突入しないように。ただし、当初想定ルートから大きくは外れず、速やかに元のルートに戻るように。
- 尾根から風下側には雪が張り出した雪庇があります。雪庇の上に乗ると崩れるので、雪の端(雪庇)から3mは離れて歩きましょう。
- 春の残雪期は、雪の下の樹木の熱で雪が解け、藪の上に雪が乗っているだけのときがあります。この際には雪を踏み抜いて、雪の下まで落ちるときがあります。雪の状態をよく見ましょう。
雪崩の判断
雪崩の判断は非常に難しいです。
現地の地形を見ても、雪崩が起きそうな地形だと思っても、ほとんどの場合、雪崩は起きません。
そのため、一体いつ雪崩が起きるのか、判断は非常に難しいです。
いつ起きるかは判断が難しいのですが、雪崩に対して以下のようなことは把握しておくべきです。
- 雪崩や雪庇、雪の踏み抜きを警戒する
- 雪崩は、以下のようなところで発生しやすいです。こうしたところは避けましょう。
- 傾斜角度が30~50度
- 木が生えていない(過去の雪崩で木が流されている)
- 上部に大岩や大木、雪庇がある
- 雪の割れ目(クラック)やシワ状の雪の模様(雪シワ)がある
- 数日内にドカ雪や降雨、急激な温度上昇があった
- 雪崩は、以下のようなところで発生しやすいです。こうしたところは避けましょう。
- 危険なところを複数人で通過する際は、一人ずつ通過する
- 一度に大人数で通過すると衝撃が大きくなり、雪崩の危険が高まります。
- もし雪崩が起きた際に、全員巻き込まれると助ける人がいなくなります。一人で通過していたら、他の人が助けに行けます。
例えば、下記のような斜面を見た場合、左側の斜面は雪庇があり、また斜面には木がないので過去に雪崩が起こっただろうことがわかりますので、危険です。
一方の右側には木がまばらにありますが、上部には雪崩の跡があり、雪庇もありますので、やはり危なそうです。
左側の斜面のさらに左側を見たのが、以下の写真です。
左側にはしっかりとした樹林帯があります。
10年以上雪崩は起きてなさそうですし、斜度もやや緩やかなようです。
樹林帯の上部に雪庇があるかどうかまでわかりませんが、樹林帯は比較的安全だと判断して樹林帯を登り、登った先で雪庇がなければ上まで登る、雪庇があれば別ルートを探す、という判断をしました。
樹林帯を登った先は以下の状況でした。
なだらかな斜面で、雪崩の危険はなさそうなので上まで登ることができました。
登った先から、先ほど危ないと判断した斜面を見ると、以下の通り。
雪庇が張り出しており、クラックも入っているので、やはり危険な斜面でしたね。
雪崩の判断は非常に難しいです。
実際に雪崩が起こっている斜面を見て、なぜ雪崩が起こったのかを考え、知識を積み重ねていくしかないように思っています。
なお、「雪崩遭難」という本には、以下のような教訓が記載されています。
- 川原が広い、かつて通った時にデブリがなかったからといって安全とは判断できない
- 沢中に幕営しない
- 地図から雪崩の危険を推測する
- 入山前の気象情報から目的山域の積雪状況を推測する
- 弱層テストを行って、積雪層構造を把握する
- 雪崩ビーコンは下山するまで電源を切らない
- ナイフは首に下げておく
- ライト、登山靴、手袋などの装備は手元において就寝する
- テントの外に置く装備はまとめておく。もしくは流失しないようにテントなどに結びつけておく
その他
雪山は、雪の状態や天候により、所要時間や危険度が大きく異なります。
これは文章で読んだだけでは感覚的にはわかりません。
感覚的に危険度がわかっていないと、いざという場面での判断でリスクを過少判断してしまいます。
安全な範囲内で色々な経験を積み重ねることが重要ですね。
意識して、以下のようなことをしてみるといいと思います。
- あえてトレースのついていない深い雪の中を100m歩いてみる
- 雪をかき分けて進むラッセルがどれだけ大変か、どれだけ遅いか、体感できます。
- ワカンをつけて歩いてみましょう。ワカンがあればどれだけ楽か、そしてワカンがあっても腰までの雪だとなかなか進めないことを、感覚的に理解しましょう。
- やや天候が悪い時に、登山口や森林限界から少しだけ(安全な範囲で)登ってみる
- 強風の時にどれだけ顔が痛いか、手先・足先が冷えるか、体感しましょう
- ガスって周囲が見えなくなるホワイトアウトがどれだけ恐ろしいか、体感しましょう。
その他、雪山登山でのちょっとしたヒントです。
- カメラやスマホは低温で電源が落ちる場合があります。使わないときは内ポケットに入れておきましょう。
- スマホは低温で電源が入らないかもしれません。スマホのGPSだけに頼るのは危険です。
最後に
色々と書いてきましたが、最初から頭にすべて入れて歩くのは難しいですし、感覚的に危険度を判断できません。
安全と思える範囲で徐々にステップアップしていくこと、
そして何か危険や違和感を感じたら、迷わず引き返すこと、
この心がけで雪山登山を楽しんでください。
雪山初心者の方は、まず「雪山登山の始め方 既存装備での安全なお試し方法&ルート」を一読ください。